、まだそこまではゆけない、新聞によつて現代社会相と接触を保つてゐる訳だ。
今日はまた湯屋で、ほんたうの一番風呂だつた、湯加減もよかつたので、たつたひとり、のび/\と手足を伸ばした気持は何ともいへなかつた、殊にそこの噴井の水はうまかつた、腹いつぱい飲んだことである。
アルコールのおかげで、ぐつすり寝た、お天気もよいらしい、いゝ気分である、人生の最大幸福はよき食慾とよき睡眠だ。
いつ頃からか、また小さい蜘蛛が網代笠に巣喰うてゐる、何と可愛い生き物だらう、行乞の時、ぶらさがつたりまひあがつたりする、何かおいしいものをやりたいが、さて何をやつたものだらう。
十一月六日[#「十一月六日」に二重傍線] 晴后曇、行程六里、竹田町、朝日屋(三五・中)
急に寒くなつた、吐く息が白く見える、八時近くなつてから出発する、牧口、緒方といふ村町を行乞する、牧口といふところは人間はあまりよくないが、土地はなか/\よい、丘の上にあつて四方の連山を見遙かす眺望は気に入つた、緒方では或る家に呼び入れられて回向した、おかみさんがソウトクフ(曹洞宗の意味!)といつて、たいへん喜んで下さつたが、皮肉をいへば、その喜びと
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