上りらしいので多少、いやらしいところがないでもないが、悪い方ではない。
山の町の朝はおくれる、九時から二時まで行乞、去年の行乞よりもお賽銭は少なかつたが、それでも食べて飲んで寝るだけは十分に戴いた、袈裟の功徳、人心の信愛をありがたく感じる。
行乞相はだん/\よくなる、おちついてきたからだらう、歩かない日は――行乞しない日は堕落した日である。
此地方ではもう、豆腐も水に入れてある、草鞋も店頭にぶらさげてある、酒も安い、――何だか親しみを覚える。
豪家らしい家で、御免と慳貪にいふ、或はちよんびり米を下さる(与へる方よりも受ける方が恥づかしいほど)、そして貧しい裏長屋でわざ/\よびとめて、分不相応の物質を下さる、――何といふ矛盾だらう、――今日も或る大店で嫌々与へられた一銭は受けなかつたが、通りがゝりにわざ/\さしだされた茶碗一杯の米はほんたうにありがたく頂戴した。
入浴三銭、酒弐十銭、――これで私は極楽の人となつた。
今日は一句もない、句の出来ないのは気持の最もいゝ時か或は反対に気持の最もよくない時かである。
今日は酒屋で福日と大朝とを読ませて貰つた、新聞も読まないやうになると安楽だけれど
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