水の流れるやうな自然さ、風の吹くやうな自由さが十分でない、もつとも、そこまで行けばもう人間的ぢやなくなる、人間は鬼でもなければ仏でもない、同時に鬼でもあれば仏でもある。
隣室の老遍路さんは同郷の人だつた、故郷の言葉を聞くと、故郷が一しほ懐かしくなつて困る。……
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空たかくべんたういたゞく
光あまねく御飯しろく
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女房に逃げられて睾丸を切り捨てた男――その男が自身の事をしやべりつゞけた、多分、彼はその女房の事で逆上してゐるのだらう、何にしても特種たるを失はなかつた。
Gさんに、――我々は時々『空』になる必要がありますね、句は空なり、句不異空といつてはどうです、お互にあまり考へないで、もつと、愚になる、といふよりも本来の愚にかへる必要がありますね。
どうやら雨もやんだらしい、明日はお天気に自分できめて寝る、私にもまだ明日だけは残つてゐる、来月はないが、もちろん来年もないが。
十一月二日[#「十一月二日」に二重傍線] 曇、后晴、延岡町行乞、宿は同前。
九時から一時まで辛うじて行乞、昨夜殆んど寝つかれなかつたので焼酎をひつかける、それで辛うじ
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