の中は広いやうで狭い、お互に悪い事は出来ませんなあ、といつて挨拶をかはしたことだつた。
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 ゆき/\て倒れるまでの道の草
・酔ひざめの星がまたゝいてゐる(野宿)
 風が出てうそ寒い朝がやつてきた
・夕寒の豚をひきずりまはし
・すこし熱がある風の中を急ぐ
 跣足の子供らがお辞儀してくれた
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三日振に湯に入つて髯を剃つて一杯ひつかけた、今夜はきつといゝ夢をみることだらう!

 十一月一日[#「十一月一日」に二重傍線] 曇、少雨、延岡町行乞、宿は同前。

また雨らしい、嫌々で九時から二時まで延岡銀座通を行乞、とう/\降りだした、大したことはないが。
例の再会の人とは今朝別れる、彼は南へ、私は北へ――そして夕方また大分で同宿したことのあるテキヤさんと再会した、逢うたり別れたり、さても人のゆくへはおもしろいものである。
同宿の土方でテキヤさんはイカサマ賽を使ふことがうまい、その実技を見せて貰つて、なるほど人はその道によつて賢しだと感心した。
昨日も今日も行乞相は悪くなかつた、しかしまだ/\境に動かされるところがある、いひかへれば物に拘泥するのである、
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