ウチユウ一本なかるべからざる次第である。
一日降りつゞけて風さへ加はつた、明日の天候も覚束ない、まゝよどうなるものか、降るだけ降れ、吹くだけ吹け。
十月卅一日[#「十月卅一日」に二重傍線] 曇后晴、行程四里、延岡町、山蔭屋(三〇・中上)
風で晴れた、八時近くなつて出発、途中土々呂を行乞して三時過ぎには延岡着、郵便局へ駆けつけて留置郵便を受取る、二十通ばかりの手紙と端書、とり/″\にうれしいものばかりである(彼女からの小包も受取つた、さつそく袷に着換へる、人の心のあたゝかさが身にしみこむ)。
今日は風が騒々しかつた、少し熱のある身体で行乞するのは少し苦しかつた、これも死ねない人生の一片だらう。
此地方の子供はみんな跣足で学校へゆく(此地方に限らず、田舎はどこでもさうだが)、学校にはチヤンと足洗ひ場がある、ハイカラな服を着てハイカラな靴を穿いた子供よりもなんぼう親しみがあるか知れない、また、此地方にはアンテナを見ることが稀だ、それだけ近代文化は稀薄だともいへやう。
此宿も悪くない、二三年前山蔭で同宿したことのある若い世間師に再会した、彼は私をよく覚えてゐた、私も彼をよく覚えてゐた、世
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