て寝ついた――アルコールかカルモチンか、どちらにしても弱者の武器、いや保護剤だ。
同宿の同郷の遍路さんとしみ/″\語つた、彼は善良なだけそれだけ不幸な人間だつた、彼に幸福あれ。

 十一月三日[#「十一月三日」に二重傍線] 晴、稍寒、延岡町行乞、宿は同前。

だいぶ寒くなつた、朝は曇つてゐたが、だん/\晴れわたつた、八時半から三時半まで行乞する、近来の励精である。
今日の行乞相はたしかに及第だ、乞食坊主としてのすなほさ[#「すなほさ」に傍点]とほこり[#「ほこり」に傍点]とを持ちつゞけることが出来た、勿論、さういふものが残つてゐるほど第二義的であることは免れないけれど。
いよ/\シヨウチユウとも縁切りだ。
うるかを買はうと思つたがいゝのがなかつた、松茸を食べたいと思ふが、もう季節も過ぎたし、だいたい此地方では見あたらない、此秋は松茸食べなかつたゞけぢやない、てんで見ることも出来なかつた、それにしても故郷の香り高い味はひを思ひださずにはゐられない。
新来のお客さん四人、みんな同行だ、話題は相変らず、宿の事、修行の事、そしてヨタ話。
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ふる郷の言葉なつかしう話しつゞけ
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