ではやりきれなくなつた、君がなさけの袷を着ましよ!
行乞には早すぎるので(四国ではなんぼ早くてもかまはない、早くなければいたゞけない、同行が多いから)、紅足馬さんから貰つてきた名家俳句集を読む、惟然坊句集も面白くないことはないけれど、隠者型にはまつてゐるのが鼻につく、やつぱり良寛和尚の方がより親しめる。
八時から十一時まで美々津町行乞、とう/\降りだした、濡れて峠を越える、三度も四度も雨やどりして、此宿についたのが四時、お客さんでいつぱいなので裏の隠宅――といへば名はいゝがその実はバラツク小屋――に泊めてもらう、相客は老遍路さん一人、かへつて遠慮がなくてよろしい。
今日の行乞相は、現在の私としては、まあ満点に近い方だつた、我といふものがなかつたとはいへないが、ないに近い方だつた、そして泊つて食べる(その上に酒一本代)だけは頂戴することが出来た。
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・墓がならんでそこまで波がおしよせて
 いざり火ちら/\して旅はやるせない
 やるせない夢のうちから鐘が鳴りだした
 朽ちてまいにち綻びる旅の法衣だ
 眼がさめたら小さくなつて寝ころんでゐた
 覗いてる豚の顔にも秋風

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