く寝たが、蚤がなか/\寝せない、虱はまだゐないらしい、寝られないまゝに、同宿の人々の話を聞く、競馬の話だ、賭博本能が飲酒本能と同様に人生そのものに根ざしてゐることを知る(勿論、色、食の二本能以外に)。

 十月廿七日[#「十月廿七日」に二重傍線] 晴、行程三里、美々津町、いけべや(三〇・中)

いゝお天気である、午前中は都農町[#「都農町」はママ]行乞、それからぼつ/\歩いて二時過ぎ美々津町行乞、或る家で法事の餅をよばれる、もつと行乞しなければ都合が悪いのだが、嫌になつたので、丁度出くわした鮮人の飴売さんに教へられて此宿に泊る、予期したよりもよかつた。
けさはまづ水の音に眼がさめた、その水で顔を洗つた、流るゝ水はよいものだ、何もかも流れる、流れることそのことは何といつてもよろしい。
同宿者の一人、老いかけやさんは異色があつた、縞のズボンに黒の上衣、時計の鎖をだらりと下げてゐる、金さへあれば飲むらしい、彼もまた『忘れえぬ人々』の一人たるを失はない。
途上、がくね[#「ね」に「マヽ」の注記]んとして我にかへる――母を憶ひ弟を憶ひ、更に父を憶ひ祖母を憶ひ姉を憶ひ、更にまた伯父を憶ひ伯母を憶ひ
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