中へ分け入つて一寝入り、それからお辨当を食べる、バツトと朝日とをかはる/″\喫ふ、みんな紅足馬さんからの贈物である。
少しばかり行乞して、この宿の前へ来たので、すぐ泊る、合[#「合」に「マヽ」の注記]客は多いけれど、みんな好人物、そして家の人々も好人物、のんきに話し合ひ笑ひ合ふ、今夜は飲まなかつた、さすがに昨夜は飲み足りたのだ。
油津で同宿したことのある尺八老とまた同宿になつた、髯のお遍路さんは面白い人だ、この人ぐらい釣好きはめつたにあるまい、修行そつちのけ、餌代まで借りて沙魚釣だ、だいぶ釣つて来たが自分では食べない、みんな人々へくれてやるのである、――ずゐぶん興味のある話を聞いた、沙魚の話、鯉の話、目白飯の話、鹿打失敗談、等、等、等――彼はさらに語る、遍路は職業としては二十年後てゐる、云々、彼はチヤームとか宣伝とか盛んにまた新しい語彙を使ふ。
[#ここから2字下げ]
・ふりかへらない道をいそぐ
・吠える犬吠えない犬の間を通る
・何となくおちつけない顔を洗ふ
 草の中の犬ころはもう死んでゐる
 落葉しいて寝て樹洩れ日のしづか
 山に寝そべれば山の蚊が
・草鞋かろく別れの言葉もかろく
 
前へ 次へ
全173ページ中72ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング