に接して考へさせられた)。
鰯の新らしいのを宿のおかみさんに酢漬にして貰つて一本いたゞく、鰯が五銭、酢醤油が二銭、焼酎が十三銭。
一昨夜も昨夜も寝つかれなかつた、今夜は寝つかれるい[#「るい」に「マヽ」の注記]ゝが、これでは駄目だ、せつかくアルコールに勝てゝも、カルモチンに敗けては五十歩百歩だ。
二三句出来た、多少今までのそれらとは異色があるやうにも思ふ、自惚かも知れないが。――
[#ここから2字下げ]
・かな/\ないてひとりである
 一すぢの水をひき一つ家の秋
・焼き捨てゝ日記の灰のこれだけか
[#ここで字下げ終わり]
今日は行乞中悲しかつた、或る家で老婆がよち/\出て来て報謝して下さつたが、その姿を見て思はず老祖母を思ひ出し泣きたくなつた、不幸だつた――といふよりも不幸そのものだつた彼女の高恩に対して、私は何を報ひたか、何も報ひなかつた、たゞ彼女を苦しめ悩ましたゞけではなかつたか、九十一才の長命は、不幸が長びいたに過ぎなかつたのだ(彼女の老耄と枝柿との話は哀しい)。

 九月十七日[#「九月十七日」に二重傍線] 曇、少雨、京町宮崎県、福田屋(三〇・上)

今にも降り出しさうな空模様
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