祈らずにはゐられなかつた、――不幸な君たち、早く好きな男といつしよになつて生の楽しみを味はひたまへ!
今夜はさびしい、広い二階に飴売の若い鮮人と二人きりである、彼は特におとなしい性質で好感が持てる、田舎まはりの仲買人から、百姓衆の窮状を聞かされた、此旧盆を迎へかねた家が多いさうな、此辺の山家では椎茸は安いし繭は安いし、どうにもやりきれないさうな、桑畑をつぶしてしまひたいけれど、役場からの慰撫によつて、やつと見合せてゐるさうな、また日傭稼人は朝から晩まで汗水垂らして、男で八十銭、女で五十銭、炭を焼いて一日せい/″\二十五銭、鮎(球磨川名産)を一生懸命釣つて日収七八十銭、――なるほど、それでは死なゝいだけだ、生きてゐる楽しみはない、――私自身の生活が勿躰ないと思ふ。
向ひのラヂオが賑かだ、どこからかジヤズのリコードが響いてくる、ジヤズ/\ダンス/\、田舎の人々でさへもう神経衰弱になつてゐる。
都会のゴシツプに囚はれてはゐなかつたか、私はやつぱり東洋的諦観の世界に生きる外ないのではないか、私は人生の観照者だ(傍観者であらざれ)、個から全へ掘り抜けるべきではあるまいか(たまたま時雨亭さんの来信
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