時間ばかり行乞、やうやく教へられた、そして大正十五年泊つたおぼえのある此宿を見つけて泊る、すぐ湯屋へゆく、酒屋へ寄る。……
相客は古参のお遍路さんだ、例の如く坑夫あがりらしい、いつも愚痴をいつてゐる、嫌な男だと思つたが、果して夕飯の時、焼酎を八本も呷つて(飲むのぢやない、注ぎ込むのだつた)不平を並べ初めた、あまりうるさいので、外へ出てぶら/\してゐるうちに、私自身もまたカフヱーみたいなところへはいつた、ビールを久しぶりに味ふ、その余勢が朝鮮女の家へまで連れていつた、前には五人の朝鮮淫売婦、彼女らがペチヤ/\朝鮮語をしやべるので私も負けずにブロークンイングリツシユをしやべる、そのためか、たゞしは一銭銅貨ばかりで払ふのに同情したからか、五十銭の菓子代を三十銭に負けてくれた、何と恥づかしい、可笑しい話ではないか。
アルコールのおかげで、隣室の不平寝言――彼は寝てまで不平をいつてゐる――のも気にかけないで、また夜中降りだした雨の音も知らないで、朝までぐつすり寝ることができた。
此宿はよい、待遇もよく賄もよく、安くて気楽だ、私が着いた時に足洗ひ水をとつてくれたり、相客の喧騒を避けさせるべく隣室に
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