にはもう人がはいつてゐた、そこからまた高橋へゆく、適当な家はなかつた、またひきかへして寥平さんを訪ねる、後刻を約して、さらに稀也さんを訪ねる、妙な風体を奥さんや坊ちやんやお嬢さんに笑はれながら、御馳走になる、いゝ気持になつて(お布施一封までいたゞいて)、寥平さんを訪ねる、二人が逢へば、いつもの形式で、ブルジヨア気分になりきつて、酒、酒、女、女、悪魔が踊り菩薩が歌ふ、……寝た時は仏だつたが、起きた時は鬼だつた、ぢつとしてはゐられないので池上附近を歩いて見る、気に入つた場所だつた、空想の草庵を結んだ。……
今日も一句も出来なかつた、かういふあはたゞしい日に一句でも生れたら嘘だ、ちつとも早くおちつかなければならない。
自分の部屋が欲しい、自分の寝床だけは持たずにはゐられない、――これは私の本音だ。

 十二月十八日[#「十二月十八日」に二重傍線] 雨、后、晴、行程不明、本妙寺屋(悪いね)

終日歩いた、たゞ歩いた、雨の中を泥土の中を歩きつゞけた、歩かずにはゐられないのだ、ぢつとしてゐては死ぬる外ないのだ。
朝、逓信局を訪ねる、夜は元寛居を訪ねる、煙草からお茶、お酒、御飯までいたゞく、私もいよ
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