二重傍線] 晴、行程二里、そして汽車、熊本市、彷徨。
けふも大霜で上天気である、純な苦味生さんと連れ立つて荒尾海岸を散歩する(末光さんも純な青年だつた、きつと純な句の出来る人だ)、捨草を焚いて酒瓶をあたゝめる、貝殻を拾つてきて別盃をくみかはす、何ともいへない情緒だつた。
苦味生さんの好意にあまえて汽車で熊本入、百余日さまよいあるいて、また熊本の土地をふんだわけであるが、さびしいよろこびだ、寥平さんを訪ねる、不在、馬酔木さんを訪ねて夕飯の御馳走になり、同道して元寛さんを訪ねる、十一時過ぎまで話して別れる、さてどこに泊らうか、もうおそくて私の泊るやうな宿はない、宿はあつても泊るだけの金がない、まゝよ、一杯ひつかけて駅の待合室のベンチに寝ころんだ、ずゐぶんなさけなかつたけれど。……
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・あてもなくさまよう笠に霜ふるらしい
寝るところがみつからないふるさとの空
・火が燃えてゐる生き物があつまつてくる
□
起きるより火を焚いて
悪水にそうて下る(万田)
磯に足跡つけてきて別れる
耕す母の子は土をいぢつて遊ぶ
明日の網をつくらうてゐる寒い風
別れきてか
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