んに逢へる、元気よく山ノ上町へ急ぐ、坑内長屋の出入はなか/\やかましい(苦味生さんの言のやうに、一種の牢獄といへないことはない)、やうやくその長屋に草鞋を脱いだが、その本人は私を迎へるために出かけて留守だつた、母堂の深切、祖母さんの言葉、どれもうれしかつた、句稿を書き改めてゐるうちに苦味生さん帰宅、さつそく一杯二杯三杯とよばれながら話しつゞける、――苦味生さんには感服する、あゝいふ境遇であゝいふ職業で、そしてあゝいふ純真さだ、彼と句とは一致してゐる、私と句とが一致してゐるやうに。
入浴して散歩する、話しても話しても話し飽かないほど、二人は幸福であり平和であつた、彼等に幸福と平和とがつゞくことを祈る。
夜は苦味生さんの友人末光さんのところへ案内されて泊めていたゞいた、久しぶりに、ほんたうに久しぶりに田園のしづけさしたしさを味はつた、農家の生活が最も好ましい生活ではあるまいか、自から耕して自から生きる、肉体の辛さが精神の安けさを妨げない、――そんな事を考へながら、飲んだり話したり作つたりした。
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・霜の道べりへもう店をひろげはじめた
 大霜、あつまつて火を焚きあげる

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