かせてゐるおぢいさんは
・眼の見えない人とゐて話がない
 水仙一りんのつめたい水をくみあげる
 水のんでこの憂欝のやりどころなし
 あるけばあるけば木の葉ちるちる
[#ここで字下げ終わり]
先夜同宿した得体の解らない人とまた同宿した、彼は自分についてあまりに都合よく話す、そんなに自分が都合よく扱へるかな!
私はどうやらアルコールだけは揚棄することが出来たらしい、酒は飲むけれど、また、飲まないではゐられまいけれど、アルコールの奴隷にはならないで、酒を味ふことが出来るやうになつたらしい。
冬が来たことを感じた、うそ寒かつた、心細かつた、やつぱりセンチだね、白髪のセンチメンタリスト! 笑ふにも笑へない、泣くにも泣けない、ルンペンは泣き笑ひする外ない。
夜、寝られないので庵号などを考へた、まだ土地も金も何もきまらないのに、もう庵号だけはきまつた、曰く、三八九庵[#「三八九庵」に傍点](唐の超真和尚の三八九府に拠つたのである)。

 十二月十四日[#「十二月十四日」に二重傍線] 晴、行程二里、万田、苦味生居、末光居。

霜がまつしろにおりてゐる、冷たいけれど晴れきつてゐる、きょうは久振に苦味生さ
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