ある、陽をうけて、山脈が濃淡とり/″\なのもうつくしかつた、途中、第十八番の札所へ詣るつもりだつたが、宿の都合が悪く、日も暮れかけたので、急いで此宿を探して泊つた、同宿者が多くてうるさかつた、日記を書くことも出来ないのには困つた、床についてからも嫌な夢ばかり見た、四十九年の悪夢だ、夢は意識しない自己の表現だ、何と私の中には、もろ/\のものがひそんでゐることよ!
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・旅は雀もなつかしい声に眼ざめて
・落葉うづたかく御仏ゐます
・行き暮れて水の音ある
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 十二月十一日[#「十二月十一日」に二重傍線] 晴、行程七里、羽犬塚、或る宿(二〇・中ノ上)

朝早く、第十八番の札所へ拝登する、山裾の静かな御堂である、札所らしい気分になる、そこから急いで久留米へ出て、郵便局で、留置の雑誌やら手紙やらを受け取る、こゝで泊るつもりだけれど、雑踏するのが嫌なので羽犬塚まで歩く、目についた宿にとびこんだが、きたなくてうるさいけれど、やすくてしんせつだつた。
霜――うらゝか――雲雀の唄――櫨の並木――苗木畑――果実の美観――これだけ書いておいて、今日の印象の備忘とし
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