でよかつた、日記をつけたり、近所のお寺へまゐつたりした、……そして田園情調を味はつた、殊に双之介さんが帰つて、床を並べて、しんみり話し合つてゐるところへ、家の人から御馳走になつた焼握飯《ヤキムスビ》はおいしかつた。
双之介さんと対座してゐると、人間といふものがなつかしうなる、それほど人間的温情の持主だ、同宿の田中さん(双之介さんと同業の友達)もいゝ人物だつた、若さが悩む悶えを聞いた。
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みあかしゆらぐなむあみだぶつ(お寺にて)
自動車まつしぐらに村の夕闇をゆるがして行つた
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 十二月十日[#「十二月十日」に二重傍線] 晴、行程六里、善導寺、或る宿(二五・中)

九時近くなつて、双之介さんに送られて、田主丸の方へ向ふ、別れてから、久しぶりに行乞を初めたが、とても出来ないので、すぐ止めて、第十九番の札所に参拝する、本堂庫裡改築中で落ちつきがない、まあ市井のお観音様といつた感じである、こゝから箕ノ山の麓を善導寺までの三里は田舎路らしくてよかつた、箕ノ山といふ山はおもしろい、小さい山があつまつて長々と横は[#「横は」に「マヽ」の注記]つてゐるので
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