記]、夕飯をすまして武蔵温泉まで出かけて一浴、また一杯やつて寝る。
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朝日かゞやく大仏さまの片頬
まともに拝んで、まはつて拝む大仏さま
師走の街のラヂオにもあつまつてゐる
・小春日有縁無縁の墓を洗ふ
送らるゝぬかるみの街
おいしいにほひのたゞよふところをさまよふ
ぬかるみもかはくけふのみち
・近づいてゆく山の紅葉の残つてゐる
・どつかりと腰をおろしたのが土の上で
・三界万霊の石塔傾いてゐる
ころがつてゐる石の一つは休み石
・酔がさめて埃つぽい道となる
からだあたゝまる心のしづむ(武蔵温泉)
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福岡の中州をぶら/\歩いてゐると、私はほんたうに時代錯誤的だと思はずにはゐられない、乞食坊主が何をうろ/\してると叱られさうな気がする(誰に、――はて誰にだらう)。
すぐれた俳句は――そのなかの僅かばかりをのぞいて――その作者の境涯を知らないでは十分に味はへないと思ふ、前書なしの句といふものはないともいへる、その前書とはその作者の生活である、生活といふ前書のない俳句はありえない、その生活の一部を文字として書き添へたのが、所謂前書である。
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