物、彷徨五里、時雨亭居。

眼がさめて、あたりを見まはすと、層雲文庫[#「層雲文庫」に傍点]の前だ、酒壺洞君は寝たまゝでラヂオを聞いてゐる、私にも聴かせてくれる、今更ながら機械の力に驚かずにはゐられない、九時、途中で酒君に別れて、雨の西公園を見物する、それからまた歩きつゞけて、名島の無電塔や飛行場見物、ちようど郵便飛行機が来たので、生れて初めて、飛行機といふものを近々と見た。
時雨亭さんは神経質である、泊るのは悪いと思つたけれど、やむなく今夜は泊めて貰ふ、酒壺洞君もやつてきて、十二時頃まで話す。
今日は朝のラヂオから夕の飛行機まで、すつかり近代科学の見物だつた、無論、赤毛布! いや黒合羽だつた!
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 朝の木の実のしゞま
 降るまゝ濡れるまゝで歩く
・赤い魚すぐ売れた
 泥をあびせられつゝ歩くこと
・雨の公園のロハ台が見つからない
・すさんだ皮膚を雨にうたせる
・ふけてアスフアルトも鈴蘭燈もしぐれます
・さんざしぐれる船が出てゆく
・死ねない人の鈴《レイ》が鳴る
 墓をおしのけレールしく
 松原ほしいまゝな道を歩く(名島風景)
・正しく並んで烟吐く煙突四本( 〃 )
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