ベルの音、空家の壁に張られたビラの文字、――酒呑喜べ上戸党万歳!
……たゞこの二筋につながる、肉体に酒、心に句、酒は肉体の句で、句は心の酒だ、……この境地からはなか/\出られない。……
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・ボタ山も灯つてゐる
 別れる夜の水もぞんぶんに飲み
・しぐるゝ今日の山芋売れない
 親一人子一人のしぐれ日和で
 新道まつすぐな雨にぬれてきた
 砂利を踏む旅の心
 焼き捨てる煙である塵である
 車、人間の臭を残して去つた
 地下室を出て雨の街へ
 飾窓の人形の似顔にたゝずむ
 大根ぬいてきておろして下さるあんただ(次郎さんに)
・濡れてもかまはない道のまつすぐ
 窓をあけた明るい顔だつた
 水を挾んでビルデイングの影に影
 お寺の大銀杏散るだけ散つた
・ぬれてふたりで大木を挽いてゐる
 しぐるゝやラヂオの疳高い声
 買ふことはない店を見てまはつてる
・窓の中のうまいもの見てゐるか
 どの店も食べるものばかりひろげて
・よんでも答へない彼についてゆく
 十二月の風も吹くにまかさう(寸鶏頭さんに)
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 十二月六日[#「十二月六日」に二重傍線] 雨、福岡見
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