り調子外れでないだけ気味悪かつた。
此宿はよくない、お客さんは私一人だ、気儘に読んだり書いたりをすることが出来たのは勿怪の幸だつたが。
[#ここから2字下げ]
 別れの畳まで朝日さしこむ
 別れともない猫がもつれる
 また逢ふまでの霜をふみつゝ
 霜の消えないうちに立つ
・もういちど濃いお茶飲んで別れませう
 二三歩ついてきてさようなら
・ちつとも雲のない空仰ぎつゝ別れた
 廃坑の霜がぬくうとけてゆく
・みんな活きてゆく音たてゝゐる
・古い墓に新らしい墓のかゞやかさ
 朝日まぶしう枯山たかく
・いたづらに真昼の火が燃えてゐる
・曲つて旧道のしづけさをのぼる
 耕す下を掘つてるか
・これでも生活《くらし》のお経あげてゐるのか
 そこら音ある水をたづねる
 秋風の石を祀つて拝んでゐる(追加)
[#ここで字下げ終わり]
さみしいなあ――ひとりは好きだけれど、ひとに[#「とに」に「マヽ」の注記]なるとやつぱりさみしい、わがまゝな人間、わがまゝな私であるわい。

 十二月五日[#「十二月五日」に二重傍線] 曇、時雨、行程三里、福岡市、句会、酒壺洞居。

お天気も悪いし、気分もよくないので、一路ま
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