こぼれさうな寒い顔で答へる
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 十二月四日[#「十二月四日」に二重傍線] 晴、行程六里、汽車でも六里、笹栗町、新屋(三〇・下)

冷たいと思つたら、霜が真白だ、霜消し酒をひつかけて別れる、引き留められるまゝに次郎居四泊はなんぼなんでも長すぎた。
十一時の汽車に乗る、乗車券まで買つて貰つてほんたうにすまないと思ふ、そればかりぢやない、今日は行乞なんかしないで、のんきに歩いて泊りなさいといつて、ドヤ銭とキス代まで頂戴した、――かういふ場合、私は私自身の矛盾を考へずにはゐられない、次郎さんよ、幸福であつて下さい、あんたはどんなに幸福であつても幸福すぎることはない、それだのに実際はどうだ、次郎さんは商売の調子がよくないのである、日々の生活も豊かでないのである。
飯塚へ着いたらもう十二時近かつた、濁酒一杯の元気で八木山峠を越える、そして七曲りの紅葉谷へ下りる(笹栗新四国八十八ヶ所、第三十四番の薬師堂)、このあたりの山と水とは悪くない。
途中、村の老人連の放蕩話は面白かつた、博多柳町で、仕切一円、一円六十銭といつたやうな昔がたり、また途上の狂女は嫌だつた、若いだけ、すつか
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