て雨だつた、あんなにうらゝかな日がつゞくものぢやない、主人公と源三郎さんと私と三人で一日話し合ひ笑ひ合つた、気障な言葉だけれど、恵まれた一日だつたことに間違はない。
夕方、わかれ/\になつて、私はこゝへきた、そして次郎さんのふところの中で寝せてもらつた、昨夜約束した通りに。
飲みつゞけ話しつゞけだ、坐敷へあがると、そこの大机には豆腐と春菊と密[#「密」に「マヽ」の注記]柑と煙草とが並べてあつた、酒の事はいふだけ野暮、殊に私は緑平さんからの一本を提げてきた、重かつたけれど苦にはならなかつた、飲むほどに話すほどに、二人の心は一つとなつた、酒は無論うまいが、湯豆腐はたいへんおいしかつた。
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 あんな月が雨となつた音に眼ざめてゐる
 ほどよい雨の冬空であります
・ボタ山のたゞしぐれてゐる
 ふとんふか/″\とあんたの顔
・いくにち影つけた法衣ひつかける
 ふりかへれば香春があつた
 ボタ山もとう/\見えなくなつてしまつた
・冬雨の橋が長い
 びつしより濡れてる草の赤さよ
・音を出てまた音の中
 重いもの提げてきた冬の雨
 水にそうて下ればあんたの家がある
・笠も漏りだした
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