つた、かなり冷たかつた、それだけうらゝかな日だつた、うらゝかすぎる一日だつた、ゆつくり伊田まで歩いてゆく、そして三時間ばかり行乞、一週間ぶりの行乞だ、行乞しなくてはならない自分だから、やつぱり毎日かゝさず行乞するのが本当だ。
行乞は雲のゆく如く、水の流れるやうでなければならない、ちよつとでも滞つたら、すぐ紊れてしまふ、与へられるまゝで生きる、木の葉の散るやうに、風の吹くやうに、縁があればとゞまり縁がなければ去る、そこまで到達しなければ何の行乞ぞやである、やつぱり歩々到着だ。
伊田で、八百屋の店頭に松茸が少しばかり並べてあつた、それを見たばかりで私はうれしかつた、松茸を見なかつた食べなかつた物足りなさが紛らされた(その松茸は貧弱なものだつたけれど)。
糒川の草原にすわつて、笠の手入れをしたり法衣のほころびを縫ふたりする、ついでに虱狩もした、香春三山がしつとりと水に映つてゐる、朝の香春もよかつたが、夕の香春もよい。
河岸には(伊田の街はづれの)サアカスが興業してゐた、若い踊子や象や馬がサー[#「ー」に「マヽ」の注記]カス気分を十分に発散させてゐた、バカホ[#「ホ」に「マヽ」の注記]ンド、ル
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