(この辺は今春、暮れてから緑平さんにひつぱりまはされたところだ、また、因に書いておく、香春岳全山は禁猟地で、猿が数百匹野生して残存してゐる、見物に登らうかとも思つたが、あまり気乗りがしないので、やめた、二三十匹乃至二三百匹の野生猿が群がり遊んでゐる話を宿の主人から聞かされた)。
此宿は外観はよいが内部はよくない、たゞ広くて遠慮のないのが気に入つた、裏の川で洗濯をする、流れに垢をそゝぐ気分は悪くなかつた。
一浴一杯、それで沢山だつた、顔面頭部の皮膚病が、孤独の憂欝を濃くすることはするけれど。
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すくひあげられて小魚かゞやく
はぎとられた芝土の日だまり
・菊作る家の食客してゐる
そこもこゝも岩の上には仏さま(高座石寺)
谺谺するほがらか
鳴きかはしてはよりそふ家鴨
枯木かこんで津波蕗の花
つめたからう水底から粉炭《ビフン》拾ふ女
火のない火鉢があるだけ
落葉ふんでおりて別れる(緑平君に)
・みすぼらしい影とおもふに木の葉ふる(自嘲)
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十一月廿九日[#「十一月廿九日」に二重傍線] 晴、霜、伊田行乞、緑平居、句会。
大霜だ
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