といつてこゝへ来て黙つてゐることは私の心情が許さないし、とにもかくにも地橙孫さんは尊敬すべき紳士である、私は俳人としてゞなく、人間として親しみを感じてゐるのである。
宿に戻つて、すぐ入浴、そして一杯、それはシヨウチユウ一杯とドブ一杯とのカクテルだ、飲まずにはゐられないアルコール(酒とはいはない)、何とみじめな、そして何とうまいことだろう!
下関は好きだけれど、煤烟と騒音とには閉口する、狭くるしい街を人が通る、自動車が通る、荷馬車が通る、オートバイが通る、自転車が通る、……その間を縫うて、あちらこちらと行乞するのはほんたうに嫌になります。
生きてゐることのうれしさとくるしさとを毎日感じる、同時に人間といふものゝよさとわるさとを感ぜずにはゐられない、――それがルンペン生活の特権とでもいはうか、それはそれとして明日は句会だ、どうかお天気であつてほしい、好悪愛憎、我他彼此のない気分になりたい。
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改作二句(源三郎居即事)
・吠えて親しい小犬であつた
・まづ朝日一本いたゞいて喫ひこむ
□
・旅はきらくな起きるより唄
・雨をよけてゐるラヂオがきこえる
ハジカレ
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