鰒食べつゝ話が尽きない( 〃 )
□
・濡れて寒い顔と顔がしづくしてゐる
バクチにまけてきて相撲見の金を借り出さうとしてゐる
時化でみづから吹いて慰む虚無僧さん
・空も人も時化ける
冬空のふる郷へちかづいてひきかへす
追うても逃げない虫が寒い
[#ここで字下げ終わり]
十一月廿二日[#「十一月廿二日」に二重傍線] 晴曇定めなし、時々雨、一流街行乞、宿は同じ事。
お天気は昨日からの――正確にいへば一昨日からの――つゞき、降つたり晴れたりだ、十時近くなつて、どうやら大して降りさうもないので出かける、こんな日は、ひとり火鉢をかゝへて、読書と思索とに沈潜したいのだけれど、それはとうてい許されない。
草鞋ではとてもやりきれないので、昨日も今日も地下足袋を穿いたが、感じの悪い事おびたゞしい。
二時過ぎまで行乞、キス一杯の余裕あるだけはいたゞいて、地橙孫さんを訪ねる、不在、奥さんに逢つて(女中さん怪訝な顔付で呼びにいつた)ちよつと挨拶する、白状すれば、昨春御馳走のなりつぱなしになつてゐるし、そのうへ少し借りたのもそのまゝになつてゐる、逢うて話したいし、逢へばきまりが悪いし、
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