ろ深耶馬を下るためにといふので二円ばかり貯つてゐたのだが、宇島までにすつかり無くなつた、宇島で行乞したくないのを無理に行乞したのは、持金二十銭しかないので、食べて泊るだけにも二十二銭の不足だつたからである)、駅で別れる、しぐれがなか/\やみさうもない、気分もおちつかないので、関門を渡る、晴間々々に三時間ばかり行乞、まだ早すぎるけれど、昨春馴染の此宿へ泊る、万事さつぱりしてゐて、おちつける宿、私の好きな宿である。
酒は心をやはらげ湯は身体をやはらげる、身心共にやはらげられて寝たのに、虱の夢をみたのはどうしたことだらう!(もう一杯飲みたい誘惑に敗けたからかも知れない!)
下関はなつかしい土地だ、生れ故郷へもう一歩だ、といふよりもすでに故郷だ、修学旅行地として、取引地として、また遊蕩地として――二十余年前の悪夢がよみがへる。……
秋風の関門を渡る――かも知れませんよと白船君に、旅立つ時、書いて出したが、しぐれの関門を渡る――となつたが、こゝからは引き返す外ない、感慨無量といふところだ。
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しぐるゝ朝湯もらうて別れる(源三郎居)
・ふる郷の言葉となつた街にきた
・ふる郷
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