那軽業師と同宿、また同宿の同郷人と話した、言葉の魅力といつたやうなものを感じる。
近来しみ/″\感じるのであるが、一路を辿る、愚に返る、本然を守る――それが私に与へられた、いや残された最後の、そして唯一の生き方だ、そこに句がある、酒がある、ともいへやう。
このあたりも菊作りがさかんだ、小屋までかけて観せるべく並べてある、私も観せて貰つた、あまり好きではないが。
一室一人(但し半燈)もよかつた、宿の人々、同宿の人々がやさしいのもうれしかつた。
十一月十五日[#「十一月十五日」に二重傍線] 晴、行程七里、中津、昧々居(最上々々)
いよ/\深耶馬渓を下る日である、もちろん行乞なんかはしない、悠然として山を観るのである、お天気もよい、気分もよい、七時半出立、草鞋の工合もよい、巻煙草をふかしながら、ゆつたりした歩調で歩む、岩扇山を右に見てツイキ[#「ツイキ」に傍線]の洞門まで一里、こゝから道は下りとなつて深耶馬の風景が歩々に展開されるのである、――深耶馬渓はさすがによかつた、といふよりも渓谷が狭くて人家や田園のないのが私の好尚にかなつたのであらう、とにかく失望しなかつた、気持がさつさうとし
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