山は眺めて悪くない。
此宿も悪くない、広くて静かだ、相当の人が落魄して、かういふ安宿をやつてゐるらしい、漬物がおいしい、お婆さんが深切だ。
今日は雑木山でおべんたうを開いた、よかつた。
朝が冷たかつたほど昼は暖かだつた。
浜口首相狙撃さる――さういふ新聞通信を見た時、私は修証義を読みつゝ行乞してゐた、――無情忽ちに到るときは国王大王親眤従僕助くるなし、たゞ独り黄泉に赴くのみなり、己れに随ひゆくは善悪業等のみなり。――
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おべんたうをひらく落葉ちりくる
大銀杏散りつくしたる大空
・落葉散りしくまゝで住んでゐる
ゆふべ、片輪の蜘蛛がはいあるく
・また逢うた支那の子供が話しかける
西へ北へ支那の子供は私は去る
歩いても眺めても知らない顔ばかり
鉄鉢、散りくる葉をうけた
水飲んでルンペンのやすけさをたどる
支那人の寝言きいてゐて寒い
・虱よ捻りつぶしたが
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明日の事――深耶馬の渓谷美や、昧々さんとの再会や何や彼や――を考へて興奮したからだらう、二時頃まで寝られなかつた、かういふ身心では困るけれど、どうにもしようがない。
今夜も例の支
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