ふよりも非人情的態度の人々に対すると、多少の憤慨と憐愍とを感じないではゐられない、さういふ場合には私は観音経を読誦しつゞける、今日もさういふ場合が三度あつた、三度は多過ぎる。
吊り下げられた鉤にひつかゝる魚、投げ与へられた団子を追うて走る犬、さういふ魚や犬となつてはならない、さうならないための修行である、今日も自から省みて自から恥ぢ自から鞭つた。
寒い、気分が重い、ぼんやりして道を横ぎらうとして、あはや自動車に轢かれんとした、危いことだつた、もつともそのまゝ死んでしまへば却つてよかつたのだが、半死半生では全く以て困り入る。
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 あふるゝ朝湯のしづけさにひたる(湯口温泉)
・こゝちようねる今宵は由布岳の下
 下車客五六人に楓めざましく
 雑木紅葉のぼりついてトンネル
 尿してゐる朝の山どつしりとすはつてゐる
・自動車に轢かれんとして寒い寒い道
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昨日の宿は申分なかつたが、今日の宿もよい、二十五銭でこれだけの待遇をして貰つては何だかすまないやうな気がする、着くと温かい言葉、炭火、お茶、お茶請(それは漬物だけれど)そして何でも気持よくやつて下さる
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