家安康、家内安全、万人安楽だ(としておく、としておかなければ生きてゐられない)。

 十一月十三日[#「十一月十三日」に二重傍線] 曇、汽車で四里、徒歩で三里、玖珠町、丸屋(二五・中ノ上)

早く起きて湯にひたる、ありがたい、此地方はすべて朝がおそいから、大急ぎで御飯をしまうて駅へ急ぐ、八時の汽車で中村へ、九時着、二時間あまり行乞、ぼつ/\歩いて二時玖珠町着、また二時間あまり行乞、しぐれてさむいので、こゝへ泊る、予定の森町はすぐそこだが。
山国はやつぱり寒い、もうどの家にも炬燵が開いてある、駅にはストーブが焚いてある、自分の姿の寒げなのが自分にも解る。
北由布から中村までの山越は私の好きな道らしい、前程を急ぐので汽車に乗つたのは残念だつた、雑木山、枯草山、その間を縫うてのぼつたりくだつたりする道、さういふ道をひとり辿るのが私は好きだ、いづれまた機縁があつたら歩かせてもらはう。
今日もべんたうは草の上で食べたが、寒かつた、冷たかつた。
このあたりの山はよい、原もよい、火山型の、歪んだやうな荒涼とした姿である、焼野焼山といつた感じだ。
これは今日の行乞に限つたことではないが、非人間的、とい
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