あるさうな。
由布院といふところは――南由布院、北由布院と分れてゐるが、それは九州としては気持のよい高原であるが、こゝは由布院中の由布院ともいふべく、湯はあふれてゐるし、由布岳は親しく見おろしてゐる、村だから、そここゝにちらほら家があつて、それがかなり大きな旅館であり料理屋である、――とにかく清遊地としては好適であることを疑はない。
山色夕陽時といふ、私は今日幸にして、落日をまともに浴びた由布岳を観たことは、ほんたうにうれしい。
この宿は評判だけあつて、気安くて、深切で、安くて、よろしい、殊に、ぶく/\湧き出る内湯は勿体ないほどよろしかつた。
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・刺青あざやかな朝湯がこぼれる
洗うてそのまゝ河原の石に干す
寝たいだけ寝たからだ湯に伸ばす
別れるまへの支那の子供と話す
・水音、大声で話しつゞけてゐる
支那人が越えてゆく山の枯すゝき
また逢うた支那のおぢさんのこんにちは
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同宿三人、みんな同行だ、みんな好人物らしい、といふよりも好人物にならなくてはならなかつた人々らしい、みんな一本のむ、私も一本のむ、それでほろ/\とろ/\天下泰平、国
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