飲むのださうな、田舎からの入湯客は一日に五升も六升も飲むさうな、土着の人々も茶の代用としてがぶ/\飲むらしい、私もよく飲んだが、もしこれが酒だつたら! と思ふのも上戸の卑しさからだらう。
今夜は同宿者がある、隣室に支那人三連[#「三連」に「マヽ」の注記]れ(昨夜は私一人だつた)大人一人子供二人の、例の大道軽業の芸人である、大人は五十才位の、痘痕のある支那人らしい支那人、子供はだいぶ日本化してゐる、草津節をうたつてゐる、私に話しかけては笑ふ。
暮れてから、どしや降りとなつた、初霰が降つたさうな、もう雪がふるだらう、好雪片々別処に落ちず。――
今夜は飲まなかつた、財政難もあるけれど、飲まないでも寝られたほど気分がよかつたのである、それでもよく寝た。
繰り返していふが、こゝは湯もよく宿もよかつた、よい昼でありよい夜であつた(それでも夢を見ることは忘れなかつた!)
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枯草山に夕日がいつぱい
しぐるゝや人のなさけに涙ぐむ
山家の客となり落葉ちりこむ
ずんぶり浸る一日のをはり
・夕しぐれいつまでも牛が鳴いて
夜半の雨がトタン屋根をたゝいていつた
・しぐるゝや旅の支那
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