るほどの食慾を恵まれてゐるが、どうも睡眠はよくない、いつも不眠或は不安な睡眠に悩んでゐる、睡られないなどゝはまことに横着だと思ふのだが。
此温泉はほんたうに気に入つた、山もよく水もよい、湯は勿論よい、宿もよい、といふ訳で、よく飲んでよく食べてよく寝た、ほんたうによい一夜だつた。
こゝの湯は熱くて豊かだ、浴して気持がよく、飲んでもうまい、茶の代りにがぶ/\飲んでゐるやうだ、そして身心に利きさうな気がする、などゝすつかり浴泉気分になつてしまつた。
十一月十一日[#「十一月十一日」に二重傍線] 晴、時雨、――初霰、滞在、宿は同前。
山峡は早く暮れて遅く明ける、九時から十一時まで行乞、かなり大きな旅館があるが、こゝは夏さかりの冬がれで、どこにもあまりお客さんはないらしい。
午後は休養、流れにはいつて洗濯する、そしてそれを河原に干す、それまではよかつたが、日和癖でざつとしぐれてきた、私は読書してゐて何も知らなかつたが(谿声がさう/\と響くので)宿の娘さんが、そこまで走つて行つて持つて帰つて下さつたのは、じつさいありがたかつた。
こゝの湯は胃腸病に効験いちじるしいさうなが、それを浴びるよりも
前へ
次へ
全173ページ中108ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング