ぢやあるまいか。

 十一月十日[#「十一月十日」に二重傍線] 雨、晴、曇、行程三里、湯ノ平温泉、大分屋(四〇・中)

夜が長い、そして年寄は眼が覚めやすい、暗いうちに起きる、そして『旅人芭蕉』を読む、井師の見識に感じ苦味生さんの温情に感じる、ありがたい本だ(これで三度読む、六年前、二年前、そして今日)。
冷たい雨が降つてゐるし、腹工合もよくないので、滞在休養して原稿でも書かうと思つてゐたら、だん/\霽れて青空が見えて来た、十時過ぎて濡れた草鞋を穿く、すこし冷たい、山国らしくてよろしい、沿道のところ/″\を行乞して湯ノ平温泉といふこゝへ着いたのは四時、さつそく一浴一杯、ぶら/\そこらあたりを歩いたことである。
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△秋風の[#「秋風の」に「(しぐるゝや)」の注記]旅人になりきつてゐる
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こゝ湯ノ平といふところは気に入つた、いかにも山の湯の町らしい、石だゝみ、宿屋、万屋《よろづや》、湯坪、料理屋、等々々、おもしろいね。
ルンペンの第六感[#「ルンペンの第六感」に傍点]、さういふ第六感を、幸か不幸か、私も与へられてゐる、人は誰でも五感を通り越して
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