つかつたらしい、それを持つてきて鉄鉢に入れて下さつた、見ると五厘銅貨である、多分お婆さん、その銅貨をどこかで拾ひでもしてその抽出しに入れておいたのだらう、そして私が立つたので、それを思ひだして喜捨して下さつたのだらう、空気の報謝――これも一※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]話――よりも罪はないが、少々慾張りすぎてゐますね、お婆さんは多分五厘で極楽へゆくつもりだらう、慾張り爺さんが一銭で大願成就を神様に押しつけるやうにさ!
此宿も悪くないけれど、いや、良い方だけれど、水に乏しく風呂を立てないのは困る、今夜も私は五六里歩いてきた身体そのまゝで寝なければならなかつた、もちろん湯屋なんかありはしないから。
今夜も水声がたえない、アルコールのおかげで辛うじて眠る、いろんな夢を見た、よい夢、わるい夢、懺悔の夢、故郷の夢、青春の夢、少年の夢、家庭の夢、僧院の夢、ずゐぶんいろんな夢を見るものだ。
味ふ――物そのものを味ふ――貧しい人は貧しさに徹する、愚かなものは愚かさに徹する――与へられた、といふよりも持つて生れた性情を尽す――そこに人生、いや、人生の意味があるの
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