に)
・宿までかまきりついてきたか
・法衣吹きまくるはまさに秋風(改作)
 ずんぶりぬれて馬も人も働らく
[#ここで字下げ終わり]
山はいゝなあといふ話の一つ二つ――三国峠では祖母山をまともに一服やつたが、下津留では久住山と差向ひでお辨当を開いた、とても贅沢なランチだ、例の如く飯ばかりの飯で水を飲んだゞけではあつたが。
今日の感想も二三、――草鞋は割箸と同じやうに、穿き捨てゝゆくところが、東洋的よりも日本的でうれしい、旅人らしい感情は草鞋によつて快くそゝられる。
法眼の所謂『歩々到着』だ、前歩を忘れ後歩を思はない一歩々々だ、一歩々々には古今なく東西なく、一歩即一切だ、こゝまで来て徒歩禅の意義が解る。
山に入つては死なゝい[#「死なゝい」に傍点]人生、街へ出ては死ねない[#「死ねない」に傍点]人生、いづれにしても死にそこないの人生。
雑木山の美しさは自然そのもの、そのまゝの美しさだ、殖林の美しさは人工的幾何学的の美しさだ、前者を日本的とすれば後者は西洋的ともいはうか。
酒はたしかに私を世間的には蹉跌せしめたが、人間的には疑ひもなく生かしてくれた、私は今やうやく酒の繋縛から解脱しつゝある、
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