注記]最もよかつた、これについては別に昨日の赤岩附近の景勝といつしよに書く、それはそれとして、今朝、湯ノ原から湯ノ平へ山越しないで幸だつた、道に迷ふばかりでなく、こんな山水を見落すのだつた。
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 明けはなれゆく瀬の音たかく
 あかつきの湯が私ひとりをあたゝめてくれる
 壁をへだてゝ湯の中の男女さゞめきあふ
 見る/\月が逃げてしまつた
・物貰ひ罷りならぬ紅葉の里を通る
 一きわ赤いはお寺の紅葉
 電線の露の玉かぎりなし
・脚絆かはかねど穿いて立つ
 ホイトウとよばれる村のしぐれかな
・手洟かんでは山を見てゐる
 枯草の日向の蝶々黄ろい蝶々
・しつとり濡れて岩も私も
・蝶々とまらう枯すゝきうごくまいぞ
 枯草、みんな言葉かけて通る
 剃りたてのあたまにぞんぶん日の光
 さみしい鳥よちゝとなくかよこゝとなくかよ
 日をまともに瀧はまつしぐら
・青空のした秋草のうへけふのべんたうひらく
・あばら屋の唐黍ばかりがうつくしい
 まだ奥に家がある牛をひいてゆく
 山家一すぢの煙をのぼらせて
 ぬかるみをとんでゐる蝶々三つ
 去年《コゾ》の色に咲いたりんだう見ても(熊本博多同人
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