にうづもれ□□
吹きまくられる二人で登る
好きな僕チヤンそのまゝ寝ちまつた(源三郎居)
・このいたゞきにたゞずむことも
・水飲んで尿して去る
水飲めばルンペンのこゝろ
・雨の一日一隅を守る
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十一月廿四日[#「十一月廿四日」に二重傍線] 曇、雨、寒、八幡市、星城子居(もつたいない)
今日も亦、きちがい日和だ、裁判所行きの地橙孫君と連れ立つて歩く、別れるとき、また汽車賃、辨当代をいたゞいた、すまないとは思ふけれど、汽車賃はありますか、辨当代はありますかと訊かれると、ありませんと答へる外ない、おかげで行乞しないで、門司へ渡り八幡へ飛ぶ、やうやく星城子居を尋ねあてゝ腰を据える、星城子居で星城子に会ふのは当然だが、俊和尚に相見したのは意外だつた、今日は二重のよろこび――星氏に会つたよろこび、俊氏に逢つたよろこび――を与へられたのである。
俊和尚は予期した通りの和尚だつた、私は所謂、禅坊主はあまり好きでないが、和尚だけは好きにならずにはゐられない禅坊主だ(何と不可思議な機縁だらう)。
星城子氏も予期を裏切らない、いや、予期以上の人物だ、あまり優遇されるので恐縮するほどだ、訪問早々、奥さんの温情に甘えて、昼御飯をうんと食べたほど、身心をのび/\とさせた。
ずゐぶんおそくまで飲みつゞけ話しつゞけた、飲んでも/\話しても/\興はつきなかつた、それでは皆さんおやすみ、あすはまた飲みませう、話しませう(虫がよすぎますね!)。
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逢ひたうて逢うてゐる風(地橙孫居)
※[#「魚+昜」、133−9]かみしめては昔を話す( 〃 )
風の街の毛皮売れない鮮人で
・けふもしぐれて落ちつく場所がない
・しみ/″\しみいる尿である
買ふでもないものを観てまはる
ふる郷ちかく酔うてゐる
朝から酔うて雨がふる
・ありがたいお金さみしくいたゞく
供養受けるばかりで今日の終り
・しぐるゝや煙突数のかぎりなく(八幡風景)
風の街の朝鮮女の衣裳うつくしい
また逢ふまでの山茶花の花(昧々氏へ)
標札見てあるく彦山の鈴(星城子居)
しぐるゝやあんたの家をたづねあてた( 〃 )
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省みて、私は搾取者ぢやないか、否、奪掠者ぢやないか、と恥ぢる、かういふ生活、かういふ生活に溺れてゆく私を呪ふ。……
芭蕉の言葉に、わが句は夏爐冬扇の如し、といふのがある、俳句は夏爐冬扇だ、夏爐冬扇であるが故に、冬爐夏扇として役立つのではあるまいか。
荷物の重さ、いひかへれば執着の重さを感じる、荷物は少くなつてゆかなければならないのに、だんだん多くなつてくる、捨てるよりも拾ふからである。
八幡よいとこ――第一印象は、上かんおさかなつき一合十銭の立看板だつた、そしてバラツク式長屋をめぐる煤煙だつた、そして友人の温かい雰囲気だつた。
十一月廿五日[#「十一月廿五日」に二重傍線] 晴、河内水源地散歩、星城子居、雲関亭、四有三居。
ほがらかな晴れ、俊和尚と同行して警察署へ行く、朝酒はうまかつたが、それよりも人の情がうれしかつた、道場で小城氏に紹介される、氏も何処となく古武士の風格を具へてゐる、あの年配で剣道六段の教士であるとは珍らしい、外柔内剛、春のやさしさと秋のおごそかとを持つ人格者である、予期しなかつた面接のよろこびをよろこばずにはゐられなかつた、稽古の済むのを待つて、四人――小城氏と俊和尚と星城子君とそして私と――うち連れて中学校の裏へまはり、そこの草をしいて坐る、と俊和尚の袖から般若湯の一本が出る、殆んど私一人で飲みほした(自分ながらよく飲むのに感心した)、こゝからは小城さんと別れた、三人で山路を登る、途中、柚子を貰つたり、苺を摘んだり、笑つたり、ひやかしたり、句作したりしながら、まるで春のやうな散歩をつゞる[#「ゞる」に「マヽ」の注記]、そしてまた飲んだ、気分がよいので、景色がよいので――河内水源地は国家の経営だけに、近代風景として印象深く受け入れた(この紀行も別に、秋ところ/″\の一節として書く)、帰途、小城さんの雲関亭に寄つて夕飯を饗ばれる、暮れてから四有三居の句会へ出る、会する者十人ばかり、初対面の方が多かつたが、なか/\の盛会だつた(私が例の如く笑ひ過ぎ饒舌り過ぎたことはいふまでもあるまい)、十二時近く散会、それからまた/\例の四人でおでんやの床几に腰かけて、別れの盃をかはす、みんな気持よく酔つて、俊和尚は小城さんといつしよに、私は星城子さんといつしよに東と西へ、――私はずゐぶん酔つぱらつてゐたが、それでも、俊和尚と強い握手をして、さらに小城さんの手をも握つたことを覚えてゐる。
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・朝日まぶしく組み合つてゐる(道場即時)
・ほがらかにして草の上(草上饗宴)
よい
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