つてしまつた。自分の行為が空恐ろしくなるとともに、女に対する興奮が急に冷却してしまつた。
いつたい初世はどういう気持なのだろうか。翌る日になつても、佐太郎には何が何だかサツパリわからなかつた。これまでのあらゆる場合をそつくり思いかえしてみても、初世が自分をきらつている証拠らしいものは、一つとして思い出せない。それなのに、頑強に最後のものを拒んだ、ほんとに好きなら、あんなに拒むはずがない。と言つても、きらいだという顔をしたこともない。
佐太郎は結局わからなくなつてしまつて、秀治に相談を持ちかけた。
「はツはツは――決つてるじやないか、それは――きらわれたんだよ」
秀治は東京の工作機製作工場に出ていたのを、兄が出征したために、この夏の田植から家に戻つて来て働いていた。その工場の友だちに与太者がかつたものがいたせいか、村に帰つても不良じみたものを時々のぞきこませ、女のことでも問題を起していた。
都会にいた印みたいに、変に陰気な隈どりのある顔をゆがめて、秀治は笑いとばした。
「どうしてだよ、いやな顔一つしたことがないんだよ」
背丈こそ秀治が仰向いて見るほど高くても、キリツとした眉の下
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