押しかけ女房
伊藤永之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)蟷螂《かまきり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「飮のへん+稻のつくり」、第4水準2−92−68]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)どう/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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       一

 うす穢い兵隊服にズダ袋一つ背負つた恰好の佐太郎が、そこの丘の鼻を廻れば、もう生家が見えるという一本松の田圃路まで来たとき、フト足をとめた。
 いち早くただ一人、そこの田圃で代掻をしてる男が、どうも幼な友達の秀治らしかつたからである。
 頭の上に来かかつているお日様のもと、馬鍬を中にして馬と人が、泥田のなかをわき目もふらずどう/\めぐりしているのを見ていると、佐太郎はふと、ニユーギニヤに渡る前、中支は蕪湖のほとりで舐めた雨季の膝を没する泥路の行軍の苦労を思い出した。
 過労で眼を赤くした馬の腹から胸は、自分がビシヤ/\はね飛ばす泥が白く乾
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