いていた。ガバ/\と音立てて進む馬鍬のあとに、両側から流れ寄つて来る※[#「飮のへん+稻のつくり」、第4水準2−92−68]みたいな泥の海に掻き残された大きな土塊の島が浮ぶ。馬が近ずくと一旦パツと飛び立つた桜鳥が、直ぐまたその土塊の島に降りて、虫をあさる。
 また馬が廻つて来て、桜鳥は飛び立つ。そのあとを、馬鍬にとりついて行く男の上半身シヤツ一枚の蟷螂《かまきり》みたいな痩せぎすな恰好はたしかに秀治にちがいなかつた。
「おー、よく稼ぐな」
 内地にたどりついて最初の身近な人間の姿であつた。思わず[#「思わず」は底本では「思はず」]胸が迫つて来て呼びかけた声を、振りむきもせず一廻りして来た秀治は、顔を上げると同時に唸つた。
「おや、佐太郎――今戻つたか、遅かつたなあ」
 しかし、そのまま馬のあとを追つて背中で、
「どこに居た、今まで」
「ニユーギニヤだよ、お前はどこで負けたことを聞いた」
「北海道の帯広だよ、近いからな、直ぐ帰つて来た」
「ほー、そりや、得したなあ」
 酔つたように突ツ立つている恰好はモツサリとして顔は真黒にすすけていたが、やつぱり上背のある眼鼻立のキリツとした佐太郎にち
前へ 次へ
全24ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 永之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング