して上って行った。凸凹の危険な道で、――時々断崖の縁を通ったり、――時々足の踏み場処としては、滑りやすい木の根のからんだものだけであったり、――時々尖った大きな岩の上、または間をうねりくねったりして行った。しかし、ようやく囘龍はある山の頂きの平らな場所へ来た。満月が頭上を照らしていた。見ると自分の前に小さな草ふき屋根の小屋があって、中からは陽気な光がもれていた。きこりは裏口から案内したが、そこへは近処の流れから、竹の筧で水を取ってあった。それから二人は足を洗った。小屋の向うは野菜畠につづいて、竹藪と杉の森になっていた。それからその森の向うに、どこか遥かに高い処から落ちている滝が微かに光って、長い白い着物のように、月光のうちに動いているのが見えた。
囘龍が案内者と共に小屋に入った時、四人の男女が炉にもやした小さな火で手を暖めているのを見た。僧に向って丁寧にお辞儀をして、最も恭しき態度で挨拶を云った。囘龍はこんな淋しい処に住んでいるこんな貧しい人々が、上品な挨拶の言葉を知っている事を不思議に思った。「これはよい人々だ」彼は考えた「誰かよく礼儀を知っている人から習ったに相違ない」それから
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