った。
「こんなところで独りでねておられる方はそもそもどんな方でしょうか。……このあたりには変化《へんげ》のものが出ます――たくさんに出ます。あなたは魔物[#「魔物」に傍点]を恐れませんか」
囘龍は快活に答えた、「わが友、わしはただの雲水じゃ。それゆえ少しも魔物[#「魔物」に傍点]を恐れない、――たとえ化け狐であれ、化け狸であれ、その外何の化けであれ。淋しい処は、かえって好む処、そん処は黙想をするのによい。わしは大空のうちに眠る事に慣れておる、それから、わしのいのちについて心配しないように修業を積んで来た」
「こんな処に、お休みになる貴僧は、全く大胆な方に相違ない。ここは評判のよくない――はなはだよくない処です。「君子危うきに近よらず」と申します。実際こんな処でお休みになる事ははなはだ危険です。私の家はひどいあばらやですが、御願です、一緒に来て下さい。喰べるものと云っては、さし上げるようなものはありません。が、とにかく屋根がありますから安心してねられます」
熱心に云うので、囘龍はこの男の親切な調子が気に入って、この謙遜な申出を受けた。きこりは往来から分れて、山の森の間の狭い道を案内
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