外のものが「あるじ」と云っているその主人に向って云った。
「その親切な言葉や、皆さんから受けたはなはだ丁寧なもてなしから、私はあなたを初めからのきこりとは思われない。たぶん以前は身分のある方でしたろう」
 きこりは微笑しながら答えた。
「はい、その通りでございます。ただ今は御覧の通りのくらしをしていますが、昔は相当の身分でした。私の一代記は、自業自得で零落したものの一代記です。私はある大名に仕えて、重もい役を務めていました。しかし余りに酒色に耽って、心が狂ったために悪い行をいたしました。自分の我儘から家の破滅を招いて、たくさんの生命を亡ぼす原因をつくりました。その罸があたって、私は長い間この土地に亡命者となっていました。今では何か私の罪ほろぼしができて、祖先の家名を再興する事のできるようにと、祈っています。しかしそう云う事もできそうにありません。ただ、真面目な懺悔をして、できるだけ不幸な人々を助けて、私の悪業の償いをしたいと思っております」
 囘龍はこのよい決心の告白をきいて喜んで主人に云った、
「若い時につまらぬ事をした人が、後になって非常に熱心に正しい行をするようになる事を、これま
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