《わたし》。私、そのロシア人と友達になりたいわ」
「相変らず空想家だな?」
「だつて貴方にだつて、私の心はわかつたでせう? 二年、三年経つても、私の心は少しも変つてゐなかつたといふことが――? 矢張、私の心の中には、貴方ツきりゐないんですもの……。でも、さびしい時がありますのよ、つく/″\さびしくなつて、ひとりでゐることが悲しくつて、心細くつて、いくらかヤケになつて、悪酔ひなんかすることがありますけども……あゝさう云へば、かういふことがあります。それはさう去年の冬でした、ハルピンにはめづらしく雪が積つて――此方《こちら》は雪が降つても灰のやうにサラ/\して皆な吹き飛ばされて積ることなんかないんですけども、いくらか暖かだつたのでそれで積つたんですね。酔ぱらつてお座敷から帰る途中でしたがね、私は悲しくつて悲しくつて、涙が出て涙が出て仕方がないんです。もう此の世もなにもないやうな気がして、夢中で雪の中を歩いてゐたんです。ところが、そこに明るい灯《ひ》が一杯に輝いて、ロシア人の大勢集つてゐる教会堂があるのが眼に入つたぢやありませんか。私はいきなりそこに入つて行つて手を合せましたが、あの時のこと
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