はつきりは知らんが、いくらかは来てるらしいね? ウラジホにゐる中《うち》は、友人も一年に二度や三度は、行つたらしいからね?」
「此方《こつち》にはいつから来てるの!」
「何でも向うがすつかり赤化《せきくわ》しちやつて、ゐられなくなつて、それで此方《こつち》へ来たんだが、去年の冬あたりから来てるんぢやないかな……」
「へえ……そんな女がゐるの? それは私ちつとも知らなかつた――。矢張私と同じね?」
「だつて、旦那なんかありやしない――」
「それはあるわよ……。屹度《きつと》あるわよ。でなくつちや生きてゐられないもの……。私と同じね……。それで、明日《あす》貴方行くの?」
「是非行かなくつては――」
「ぢや、私も伴れて行つて下さいね?」
「それは伴れて行つてやつても好いけれども。ロシアの女なんかに逢つたつてしやうがないぢやないか?」
「さうぢやないのよ……。私、身につまされたんですもの……。女ツていふものは皆なさうですが、さうと思ひ込むと、忘れやしませんわね。一緒にゐたツてゐなくつたツて、同じことになるのね。旦那だつて、何だつて、皆なその人になつて了ふんですもの……。いゝことをきいたわ、妾
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