るについて、二つの目的――ひとつはお前に逢ふといふこと、それはかうして思ひ通りになつたが、もうひとつはそのアンナに是非逢つて行かなければならない」
「それで貴方のお友達から手紙でもことづかつていらつしやつたの?」
「手紙ばかりぢやない、金も少し許《ばか》り頼まれて来た――そのアンナといふ女がね、それは不思議な女でね。何うしても、僕の友人を忘れないんだ。東京にも一度来たことがあるんだがね。何と言つたつて外国人だからね。友達も負けずに深くは思つてゐるにはゐるのだけれども、周囲が喧《やか》ましくつてね。それで半年ほどゐてウラジホに帰つたんだがね? いくらなだめても、賺《すか》しても、友達でなくちやいやなんださうだ。女といふものは、思ひ込むと、あゝいふ風になるもんかも知れないな……。多少その恋が宗教的になつてゐるんだからね……」
「そんな人なの? それで矢張商売をしてゐる人?」
「何でも、ウラジホではアンナつて言へば、大したもんだつたさうだ……。踊りも唄も非常に旨いつていふ話だよ。一度、東京でも新聞に大々的に書いたことがあつたよ」
「それで、今でもその友達ツていふ人から、お金が来てるの?」
「
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